共有名義の土地・不動産の相続
土地や不動産を、複数人で共同して所有することを「共有」といいます。これを登記すると、共有名義の不動産となります。
例えば、夫婦で土地と建物を共有している場合に、一方が亡くなったときは、相続によって権利関係が細分化されていきます。
AB夫婦に、子が3人いたとしましょう。この場合、Aが亡くなると、配偶者であるB(民法890条)、3人の子(887条1項)は相続人となります。そして、法定相続分(900条)どおりに遺産分割が行われたと仮定すると、
配偶者B→不動産の1/2
子(3人)→それぞれ不動産の1/6ずつ
というような複雑な権利関係になります。
このことから、さまざまなトラブルが起こり得ます。
■起こり得るトラブル
●共有物の処分に手間がかかる
共有物は、各共有持分権者が自由に処分することができるわけではありません。例えば、建物全体の形状変更のような「変更」には共有者全員の同意が必要になります(251条)
管理行為をするにも、「各共有者の持分の価額に従い、その過半数で決する」(252条本文)という規定があります。単独でできるのは、保存行為のみです(252条ただし書)。
そのため、例えば不動産を売却しようとしても、1人でも同意しない共有者がいればできません。
●誰が利用するのかについて折り合いがつかない
共有物は、簡単には処分できませんが、仮に持分の少ない共有者であったとしても、共有物全体を使用することが可能です(249条)。そのため、誰が使用するのかの話し合いが必要になり、それが決まったとしても、使用できない他の共有者に対してどの程度の使用料を支払うかといった事項についても話し合う必要があります。
●知らない人が権利関係に入ってくる可能性がある
共有持分権者は、自己の持分については自由に処分することができます。そのため、例えば、不動産を相続した共有者の1人が、不動産を共有している親戚達とは全く関わりのない赤の他人に持分権を譲渡してしまうと、上記のような話し合いに赤の他人が加わることになり、さらに折り合いがつききにくくなると考えられます。
●さらなる相続により、権利関係がより複雑になる
このように、話し合いに折り合いがつかないうちに、新たに相続が開始してしまうことも考えられます。夫婦で共有している不動産について相続が起きると権利関係が複雑になることについては、はじめに例を挙げて説明いたしましたが、そこからさらに相続が始まると考えると、目も覆いたくなるような複雑な権利関係になってしまうと考えられます。
●固定資産税の負担についてのトラブル
共有名義の不動産の固定資産税は、各共有者が負担しますが、上記のように権利関係が複雑になり、誰が共有者なのかわからない、連絡が取れない、支払いに応じてくれない、などのトラブルが生じることが考えられます。
■どのような対策ができるか
●遺言を作成する
被相続人が存命中にすることのできる対策として、遺言により、相続人のうちの1人に自分の共有持分の全てを相続させるということが考えられます。
●相続後に放置しない
遺言がなかったとしても、相続開始後に、すみやかに遺産分割協議を行って誰か1人に単独相続させたり、共有状態を維持するにしても必要な話し合いを早めに済ませておくことが考えられます。
●共有分割訴訟を提起する
協議を行ってもうまくいかない場合には、共有物分割訴訟を提起する(258条1項)という手段もあります。
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